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医師の過労死をなくし,勤務条件を改善するための
施策の強化についての申し入れ

2007年11月14日

厚生労働大臣 舛添要一 殿

過労死弁護団全国連絡会議
代表幹事 弁護士 松丸 正
幹事長   同  川人 博

 貴省の「医師需給に係る医師の勤務状況調査」(平成18年3月27日現在の調査状況)によれば,病院等の医療機関の勤務医の1週間当りの勤務時間は,平均で63.3時間に及んでいます。

 貴省が定めている「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(平成13年12月12日付け基発第1063号)(以下,「認定基準」という。)によれば,「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価」され,原則として業務上と判断されるとしています。

 1週間当り63.3時間の前記調査による医師の勤務時間は,1週間に40時間を超える時間を時間外労働とする認定基準の考え方に基づけば1か月当たり約100時間の時間外労働に相当するものです。

 医師については,その平均値をとってみても「業務と発症との関連性が強い」とされる長時間の時間外労働の下で勤務をしていることは明らかです。

 また,認定基準は,不規則な勤務,深夜勤務,精神的緊張を伴う業務については,負荷要因として十分検討することを求めています。医師の業務が患者の容態の変化や急患による不規則な勤務,宿直による深夜勤務,そして何より患者の命と健康を預かるという精神的緊張を伴う業務であることを考えるなら,現在の医師の勤務条件の改善は,医師の過労死・過労自殺を未然に防止するためにも労働行政上の急務な課題と考えます。現に当弁護団が把握した限りでも,別紙にあるとおり,多くの医師の過労死・過労自殺の労災(公災)認定並びに損害賠償請求が認められています。

 当弁護団は,従前多くの医師の過労死・過労自殺の事件に取り組んできた中で把握した事実に基づき,勤務医の勤務条件,とりわけ長時間労働を改善するためには,医師の増員等の課題とともに労働基準法(以下,「労基法」という。)を遵守する視点からすると,

  1. 医師の労働時間の適正な把握
  2. 労基法第36条に基づく時間外及び休日労働に関する協定(以下,「36協定」という。)の適正な内容による届出
  3. 賃金不払残業(サービス残業)の是正
  4. 宿日直勤務の許可(労基法第41条)の適正な運用

の点が重要であり,これらの点につき下記のとおり申し入れいたします。

(1) 医師の労働時間の適正な把握

 貴省の定めている「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日付け基発第339号)によれば,労働時間の把握は,原則として使用者自らの現認やタイムカード・ICカード等の客観的な記録に基づきなすことを求めています。

 しかし,殆どの医療機関においては,これら原則的な労働時間の把握はもとより,自己申告による労働時間の把握さえなされていないのが実態です。

 貴省におきましては,医療機関の勤務医についての労働時間の把握方法が基発第339号通達に基づき適正になされているか調査のうえ,同通達に従った労働時間の把握をなすよう,医療機関に対し厳正な指導をされることを求めます。

(2) 36協定の適正な内容による届出

 医師についての36協定についての医療機関の対応は,事実上,次の3つに分けられます。

  1. 36協定を締結しない。
  2. 他の労働者と同様,平成10年12月28日旧労働省告示第154号に基づく延長時間の限度(1か月45時間,1年間360時間等)で届け出る。
  3. 36協定の特別条項により,1か月150時間など常軌を逸した(それが実態とも言えるが)内容で届け出る。

 36協定は,時間外・休日労働の延長に対する労基法上の歯止めとなる協定であり,その届出の履行並びに内容の適正化は,医師の勤務時間の是正にとっても重要性を有するものです。

 貴省において,医療機関における36協定の届出の有無(届出なしの時間外・休日労働には,労基法第119条1号により6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の罰則があります。),並びにその限度時間の内容,並びに限度時間の遵守の有無(限度時間を超えて時間外・休日労働をさせたときも前記の罰則があります。)について調査をすることを求めます。

 その調査に基づき,届出をしていない,あるいは適正さを欠く内容の協定をなしている,更に限度時間を遵守していない医療機関に対し,その是正を求めるとともに,是正に応じない医療機関については労基法違反として送検する等,厳正に対処することを求めます。

(3) 賃金不払残業(サービス残業)の是正

 多くの医療機関では,勤務医が所定労働時間を超えて勤務しても,これに対する残業手当が支給されていないのが実態です。

 医療機関にとってコストのかからない労働時間であることが,勤務医の長時間労働を生じている大きな要因となっています。

 貴省は民間会社のサービス残業是正のため尽力されていますが,医療機関においては常識になっていると言っても過言でないサービス残業の是正についての指導を厳正に行うことを求めます。

(4) 宿日直勤務の許可の適正な運用

 労基法第41条に基づき宿日直勤務について,監視又は断続的労働として許可を受けたときは,労基法上の労働時間,休憩,休日に関する規定は適用が除外されます。

 貴省は一般的許可基準として,勤務の態様として「ほとんど労働をする必要のない勤務」であり,宿直については「週1回,日直勤務については月1回を限度」等の基準を定めています。

 医師についての許可基準としては,「夜間に従事する業務は,一般の宿直業務以外には,病室の定時巡回,異常患者の医師への報告,少数の要注意患者の定時検脈,検温等特殊の措置を必要としない軽度の,又は短時間の業務に限ること」(応急患者の診療又は入院,患者の死亡,出産等があり,昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものは許可しない)等の要件を定めています。

 しかし,宿日直勤務につき許可を受けている医療機関にあっても,「応急患者の診療又は入院」等に追われ仮眠も十分とれていないのがその実態です。

 この点につき貴省は,平成14年3月19日付け基発第0319007号「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」に基づき,全国の医療機関に自主点検による調査を行い,その後改善報告書の提出や監督指導をなされています。

 しかし,未だ宿日直の許可基準を満たさないままに許可がなされている医療機関が多数あると考えられます。

 再度,宿日直勤務の実態についての調査を実施するとともに,許可基準を満たしていない医療機関に対して,その是正のため指導監督することを求めます。

 また,最高裁第1小法廷平成14年2月28日判決大星ビル管理事件は,警備員の仮眠時間について労基法上の労働時間に該当するかどうかが争われた事案です。

 同最高裁判決は,仮眠時間中,仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられ,実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても,その必要の発生が皆無に等しいなど実質的に義務付けられていないと認められる事情もないから,労働からの解放が保障されているといえず,したがって,本件仮眠時間は,労基法上の労働時間にあたるとしています。この判決に照らせば,宿日直時の医師の勤務は,仮眠時間も含めて労基法上の労働時間に該当することは明らかであり,貴省の宿日直についての前記許可基準の見直しを検討されることもあわせて申し入れます。


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