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[表] 精神障害・自殺労災判断指針改定案(2009年)

第1 基本的な考え方

精神障害は、今日現在、医学上、単一の病因ではなく、素因、環境因(身体因、心因)の複   数の病因が関与しており、環境からくる心理的負荷と個体側の反応性、脆弱性の相関関係で精神破綻が生じて発症するとされている(「ストレス−脆弱性」理論)。そして、この環境からくる心理的負荷には、患者がその人生でたまにしか遭遇しない事件的出来事による急性の心理的負荷よりも、むしろ日常生活において長期間に生ずる混乱や落ち込みのディリー・ハッスルズ(日常的煩わしさ)と言われている持続的な慢性の心理的負荷が精神障害の発症・憎悪の原因として作用しているとされている。

 本判断指針は、この精神障害の発症機序を前提にして、被災労働者の精神障害発症・増悪前に従事していた業務による「慢性及び急性の心理的負荷」と同人に発症・増悪した精神障害及びその精神障害による自殺との間に相当因果関係が認められれば、「業務上」の疾病及び「業務上」の死亡と取り扱うものである。

  ところで、この「業務上」外の判断おいては、精神障害の発症・増悪に関与した慢性及び急性の心理的負荷の強度が、被災者の精神障害を発症・増悪させ得る程度の心理的負荷と認められるかどうかの判断が重要である。この判断につき、本判断指針は、被災労働者とその遺家族の人間に値する生活を充たす最低限度の法定補償を迅速、公平に行うとの労災補償制度の目的に照らし、多くの人々がどう受け止めたかの平均人基準説によることなく、被災者と同種労働者の中でその性格傾向が最も脆弱である者を基準に、被災者が、精神障害の発症・増悪の前に精神障害の発症・増悪となり得る慢性及び急性の心理的負荷の認められる業務に従事していたか否かを判断するものとする

  また、この「業務上」外の判断おいては、被災者が、業務以外の心理的負荷が原因で精神障害を発症・増悪させたか否かを判断する必要がある。

  さらに、この「業務上」外の判断おいては、被災者には、他に精神障害を発症・増悪させる個体側原因があったか否かを判断する必要がある

  そこで、労災請求事案に処理に当たっては、被災者の精神障害発症・増悪の有無及びその時期を判断し、被災者の精神障害は、精神障害発症・増悪の原因となり得る心理的負荷の認められる業務に従事していたか否か、被災者は業務以外の心理的負荷が原因で精神障害を発症・増悪したと認められるか否か、被災者には他に精神障害を発症・増悪させる確たる個体側原因は認められるか否かにつき総合的に検討し、これらの事実を総合して、被災者の精神障害の発症・増悪及びその精神障害による自殺が、「業務上」の疾病及び「業務上」の死亡に該当するか否かを判断することとするものである

第2 対象疾病について

 本判断指針は、WHOのICD−10の第V章に分類されている全ての精神障害を対象疾病として取り扱うものとする。

第3 判断要件について

 下記の1、2及び3の要件を満たす精神障害の発症・増悪及びその精神障害による自殺は、労働基準法施行規則別表第1の2の第9号に該当する「業務上」の疾病及び「業務上」の死亡として取り扱うものする。

  1. 被災者に個体側原因(既往歴、社会適応状況、アルコール等依存状況、性格傾向)があり、これが原因となって精神障害を発病、増悪又は自殺させた場合、被災者の個体側原因が、当該業務に従事する以前に、確たる因子がなくても自然経過により精神障害を発病又は増悪させる寸前にまで進行していたとは認められないこと。
  2. 被災者が従事した当該業務による慢性及び急性の心理的負荷が、同人の個体側原因をその自然経過を超えて、精神障害を発病、増悪又は自殺させる要因となり得るものと認められること。
  3. 被災者の従事した当該業務以外に、同人の個体側原因をその自然経過を超えて、精神障害を発病、増悪又は自殺させる原因となる確たる因子が認められないこと。

第4 判断指針の運用基準について

1 精神障害発症の有無、病名及び発症時期の特定について

  精神障害の発症の有無、病名、発症時期及び増悪の有無とその時期は、業務と発症・増悪との関連性を検討する際の起点となる重要な事実であり、被災者本人の日記・メモ等の情報、治療歴のある場合はその情報、治療歴のない場合は関係者からの報告書、聴取書等の情報、その他の情報を総合し、ICD−10診断ガイドラインの診断基準に照らして特定するものとする。なお、この場合、治療歴がなく、もしくは発症後相当期間を経過して治療を開始し、情報が少なく診断基準を充たす事実が十分に確認できなくても、合理的に推定して特定して差しつかえないものとする

2  判断要件の1の「慢性及び急性の心理的過重負荷」について

ア 「慢性及び急性の心理的負荷」とは、経験則に照らし、精神障害発症・増悪の原因となり得る慢性及び急性の心理的負荷をいう

イ 被災者が、精神障害を発症し、引き続き業務に従事した場合は、業務従事の最終日前おおむね1年間に従事した業務を対象とし、その間に被災者が遭遇した慢性及び急性の心理的負荷が、精神障害の発症・増悪の原因となり得る「慢性及び急性の心理的負荷」と認められるか否かを判断するものとする

ウ 被災者が、精神障害を発症し、引き続き業務に従事しなかった場合は、精神障害発症前おおむね6か月間に従事した業務を対象としてその間に被災者が遭遇した慢性及び急性の心理的負荷が、精神障害発症の原因となり得る「慢性及び急性の心理的負荷」と認められるか否かを判断するものとする

エ 被災者が、精神障害を発症・増悪する前に遭遇した慢性及び急性の心理的負荷が複数存在する場合は、各心理的負荷を個別に評価するものではなく、その複数の心理的負荷を総合し、その全体の心理的負荷が、精神障害の発症・増悪の原因となり得る「慢性及び急性の心理的負荷と認められるか否かを判断するものとする

オ 精神障害の発症・増悪には、労働者がその労働生活においてまれにしか遭遇しない非日常的な事件的出来事(ライフイベント)による急性の心理的負荷よりも、日常の労働生活おいて生ずるさまざまな混乱や落ち込み(デイリー・ハッスルズ)の「慢性の心理的負荷」が存在していることに留意するものとする

カ 「慢性及び急性の心理的負荷」が認められるか否かは、個別事案毎に、被災者が精神障害を発症・増悪させる前の業務に従事することにより遭遇した慢性及び急性の心理的負荷を総合し、被災者の置かれた立場や状況を十分斟酌し、その全体の心理的負荷が、経験則上、被災者と同種労働者(職種、職場における地位や年令、経験等が類似する者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし、被災者の性格傾向が同種労働者の性格傾向として通常想定される者)を基準に判断するものとする。この判断において被災者の性格傾向が同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲をはずれるものでないかぎり、当該被災者を基準として差しつかえないものとする

キ 自動車会社の設計業務に従事していた係長が、恒常的な時間外労働や残業規制による過密労働による慢性の心理負荷により精神的・肉体的に疲労を蓄積していたところ、二車種の設計出図期限がかさなり出図の遅れによる慢性の心理的負荷を受け、かつ労組職場委員長への就任により出図期限が遵守できなくなるとの不安・焦燥の急性の心理的負荷を受けた直後にうつ病を発症し、うつ病発症後の多忙な状況の下での作業調整による急性の心理的負荷及び南アフリカ共和国への出張命令による出図期限が遵守できなくなるのではないかとの不安・焦燥の心理的負荷は、これらを総合すると、前記評価方法により「慢性及び急性の心理的負荷」と判断されるものである

ク [別表1]の「職場における心理的負荷評価表」は、前記「慢性及び急性の心理的負荷」と判断されるか否かの資料となるが、同表による心理的負荷の強度の評価方法は、被災者の置かれた立場や状況を十分に斟酌することなく、心理的負荷の強度を形式的に評価するものであり、本指針では採用しないものとする

ケ 長時間の時間外労働(休日出勤を含む)による慢性の心理的負荷は、精神障害の発症・増悪と強い関連性があり、下記いずれかの場合は、この長時間労働単独で、精神障害を発症・増悪につき、要件1を満たすと評価するものとする。

  1. 発症・増悪前1か月間に100時間を超える時間外労働に従事していた場合
  2. 発症・増悪前2か月ないし6か月間に、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働に従事していた場合

3 判断要件2業務以外の心理的負荷について

 被災者が、精神障害発症後業務に従事していた場合は業務に従事した最終日前おおむね1年間、被災者が精神障害発症後業務に従事していなかった場合は発症前おおむね6か月間に、被災者が遭遇した慢性及び急性の心理的につき、[別表2]の「職場以外の心理的負荷評価表」を参照し、被災者本人の置かれた立場や状況を十分斟酌し、その心理的負荷を総合して、全体として精神障害を発症・増悪させる原因となり得る心理的負荷の認められるか否かを判断するものとする

4 判断要件3の個体側原因について

 1精神障害の既往歴、2過去の生活史、3アルコール等依存状況、4性格傾向、の各事項につき、それらが精神障害の発症・増悪の確たる原因であるか否かを判断するものとする

 ただし、生活史を通じて、社会適応状況に特別の問題がなければ、確たる個体側要因はないものと判断する

5 業務上外の判断について

 前記判断要件による判断において、判断要件の1、2及び3の全てが判断されれば、精神障害の発症・増悪及びその精神障害による自殺は、「業務上」の疾病及び業務上」の死亡と判断するものとする。


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