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過労死とは

過労死の意義|「過労死」の意味や歴史、労災申請について解説します

1 過労死の意義

過労死とは、仕事による過労・ストレスが原因の一つとなって、脳・心臓疾患、呼吸器疾患、精神疾患等を発病し、死亡に至ることを意味します。また 過労自殺は過労により大きなストレスを受け、疲労がたまり、場合によっては「うつ病」など精神疾患を発症し、自殺してしまうことを意味します。

かつては、仕事によるストレスによって脳疾患や心臓疾患ましてや精神疾患になってしまうということを行政が否定していた時期もあります。しかし、1961年に初めて脳・心臓疾患に関する労災認定基準が設けられ、1978年に上畑鉄之丞医学博士が「過労死」を命名し、1988年に始まった過労死110番全国ネットワークの活動やご遺族の活動、医師などの研究の成果によって次第に過労死・過労自殺といった言葉が世間にもひろまるようになりました。

そして、過労死110番全国ネットワークや過労死遺族や過労死遺族が意見書などを出し続けた成果として、1995年には労働省による労働災害認定基準の一部が改定され、さらに人事院の認定基準も一部改訂されました。

こうした活動の間、国際的にもKAROSHIの言葉で日本における働き過ぎによる健康被害の問題が注目されるようになりました。

過労死の労災認定状況ですが、脳・心臓疾患については、平成12年の認定基準改正を受け、平成12年には85件だった認定件数が、平成14年には317件となり、平成27年度はやや減少し、251件となっています。うつ病など精神障害については、平成11年度に14件だったものが増えていき、平成23年度に325件となり、さらに平成24年度には475件となり、平成27年度においてもおおむね同水準の472件が認定されています。

しかし、これらは過労死のほんの一部に過ぎません。

2 脳・心臓疾患の労災認定基準

脳・心臓疾患の労災認定基準では、対象となる疾病(脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤)の発症が、労災と認められるための基準が示されています。

具体的には、業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症したと認められれば、労災と認めるとされています。

業務による明らかな過重負荷を受けたかどうかについては、(1)発症直前から前日までの間に「異常な出来事」に遭遇したと言えるか、(2)発症前概ね1週間以内に特に過重な業務に就労したと言えるか、(3)発症前概ね6か月以内に著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと言えるかの3点から判断されます。

過重な業務と言えるかどうかについては、労働時間、勤務形態(不規則な勤務の有無、拘束時間の長い勤務の有無、出張の多さ、深夜勤務・交替制勤務の有無)、作業環境(温度差、騒音、時差)、精神的緊張を伴う業務か否かを考慮して判断されることになります。例えば、発症前1か月間に100時間、または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働(一般に、「過労死ライン」と呼ばれている時間外労働時間がこれに当たります。)が認められれば、発症との関連性が強いものと判断されます。

3 精神障害の労災認定基準

うつ病などの精神障害の労災認定基準については、精神障害が、外部からのストレスによって発症に至ると考えられていることから、仕事により強いストレスがかかったことによりうつ病などの精神障害 を発症したと認められるかという視点で判断されます。

具体的には、(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること、(2)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること、(3)業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと、の3点について、労働者の働き方の具体的状況や、職場における立場や職責などが類似する労働者にとってどの程度の心理的な負荷となるか、という視点から判断されることになります。

特に問題となる、「業務による強い心理的負荷が認められる」か否かについては、例えば発病直前の1か月に概ね160時間以上の時間外労働を行うような「極度の長時間労働」があるか、そこに至らないとしても3か月連続して1か月あたり概ね100時間以上の時間外労働を行うような「長時間労働」があるか、恒常的な長時間労働に加え、事故やミス・上司からのパワーハラスメントなどの具体的出来事により強い心理的な負担が認められるか、で評価されます。これら長時間労働やその他の事情から、労働者における心理的負荷が「強」と判断された場合には、上記②の業務による強い心理的負荷があったと認められることになります。

4 他の疾病

1 脳・心臓疾患,精神障害以外の疾病による死亡も労災となることがある

厚労省の認定基準は,脳・心臓疾患と,精神障害について定められていますが,それ以外の疾病でも,業務の過重性が立証されれば,業務起因性が認められ,労災と認められることがあります。

例えば,以下の疾病で,労災と認められた例があります。

2 喘息

  1. 喘息は,アレルギーのみでなく,過労による体力の消耗,免疫力の低下,冷気,排気ガス,肉体的・精神的ストレス等の刺激が重なることで発作が起きたり悪化するとされています。過重な業務により,基礎疾患である喘息が悪化することも十分あり得ます。
  2. そのため,喘息発作による窒息死も,業務の過重性が立証されれば,労災認定されることがあります。
  3. 裁判例でも,気管支喘息の発作を起こして急性呼吸不全により死亡した事案で,業務起因性を認めたものがあります(札幌高裁H21.1.30)。

3 てんかん

重度のてんかん発作が原因で勤務中にけいれんを起こして心肺停止となり,低酸素脳症で死亡したケースで,審査会段階で業務上と認められた例があります。

4 十二指腸潰瘍

十二指腸潰瘍も,過労によるストレスが原因で引き起こされる疾病の一つです。判例でも,国内・海外出張での過重な業務の遂行で,基礎疾患が自然の経過を超えて急激に悪化し,十二指腸潰瘍を発症したとして,労災と認められている例があります(最三小判H16.9.7)。

〔参考文献〕