過重労働対策基本法案
(2010年4月 過労死弁護団全国連絡会議・
大阪過労死問題連絡会 共同提案)
大阪過労死問題連絡会 共同提案)
第1章 総則
(目的)
- 第1条
- この法律は、労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところであることにかんがみ、いわゆる過労死・過労自殺等をはじめとする労働者の健康被害をもたらす危険のある過重労働の防止に関する基本理念を定め、及び国、地方公共団体、事業主等の責務を明らかにするとともに、過重労働対策の基本となる事項を定めること等により、過重労働対策を総合的に推進して、労働者の心身の健康被害及び過労死・過労自殺等の防止を図り、あわせて被災労働者の親族等に対する支援の充実を図り、もって労働者のワーク・ライフ・バランスを保つことのできる社会、すなわち、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
- 第2条
- この法律において「過重労働」とは、長時間にわたる労働や心理的負荷を過度に蓄積させる労働等をいう。
- 2
- この法律において「過労死・過労自殺等」とは、過重労働によって心身の健康を損ねた結果生じる、脳・心臓疾患等の発症並びに精神障害等による自殺をいう。
(基本理念)
- 第3条
- 過重労働対策は、労働条件の問題としてのみとらえるのではなく、その背景に労働者の事情、事業主の事情、その他様々な社会的・経済的な要因があることを踏まえ、社会的・経済的な取組として実施されなければならない。
- 2
- 過重労働対策は、過重労働が過労死・過労自殺等を招くことにかんがみ、過重労働による労働者の心身に与える悪(下線部削除)影響や、ワーク・ライフ・バランスに関する調査研究も踏まえて実施されるようにしなければならない。
- 3
- 過重労働対策は、過労死・過労自殺等の事前予防、過労死・過労自殺等発生の危機への対応及び過労死・過労自殺等が発生した後の事後対応の各段階に応じた効果的な施策として実施されなければならない。
- 4
- 過重労働対策は、国、地方公共団体、事業主団体、事業主、医療機関、過重労働の防止等に関する活動を行う民間の団体その他関係する者の相互の密接な連携の下に実施されなければならない。
(国の責務)
- 第4条
- 国は、前条の基本理念にのっとり、過重労働対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
- 第5条
- 地方公共団体は、第三条の基本理念にのっとり、過重労働対策について、国と協力しつつ、当該地域の労働状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(事業主団体の責務)
- 第6条
- 事業主団体は、事業主の自主的な取組を尊重しつつ、事業主と労働者との間に生じた過重労働に関する申告の処理の体制の整備、事業者自らがその事業活動に関し遵守すべき基準の作成の支援その他の労働者の生命・健康の維持・向上を図るための自主的な活動に努めるものとする。
(事業主の責務)
- 第7条
- 事業主は、国及び地方公共団体が実施する過重労働対策に協力するとともに、その雇庸する労働者の業務の遂行に伴って心身の健康を損なうことがないように必要な措置を講ずるものとする。
(労働者の権利)
- 第8条
- 労働者は、労働時間、賃金、休日、休憩、休息、労働の内容などにおいて、個人の尊厳と心身の健康を損なわず、人間らしい生活を継続的に営むことができるような労働条件のもとで働く権利を有する。
(名誉及び生活の平穏への配慮)
- 第9条
- 過重労働対策の実施に当たっては、被災労働者及びその者の親族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、いやしくもこれらを不当に侵害することのないようにしなければならない。
(過重労働総合対策啓発週間)
- 第10条
- 国民の間に広く過重労働及びその防止についての関心と認識を深めるため、過重労働総合対策啓発週間を設ける。
- 2
- 過重労働総合対策啓発週間は、毎年十一月十六日から同月二十三日までの一週間とする。
- 3
- 国及び地方公共団体は、過重労働総合対策啓発週間の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めなければならない。
(過重労働対策基本計画)
- 第11条
- 政府は、過重労働対策の計画的な推進を図るため、過重労働対策の推進に関する基本的な計画(以下「過重労働対策基本計画」という。)を定めなければならない。
- 2
- 過重労働対策基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
- 一
- 長期的に講ずべき過重労働対策
- 二
- 前号に掲げるもののほか、過重労働対策の計画的な推進を図るために必要な事項
- 3
- 内閣総理大臣は、過重労働対策基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。
- 4
- 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、過重労働対策基本計画を公表しなければならない。
- 5
- 前二項の規定は、過重労働対策基本計画の変更について準用する。
(法制上の措置等)
- 第12条
- 国は、この法律の目的を達成するため、必要な関係法令の制定又は改正を行わなければならない。
- 2
- 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な財政上の措置を講じなければならない。
(年次報告)
- 第13条
- 政府は、毎年、国会に、我が国における過重労働の原因、労働者の心身への悪影響の結果(過労死・過労自殺等を含む)等の過重労働の概要及び政府が講じた過重労働対策の実施の状況に関する報告書を提出しなければならない。
第2章 基本的施策
(調査研究の推進等)
- 第14条
- 国は、過重労働の防止等に関し、調査研究を推進し、並びに情報の収集・整理・分析及び提供を行うものとする。
- 2
- 国は、前項の施策の効果的かつ効率的な実施に資するための体制の整備を行うものとする。
(理解の増進)
- 第15条
- 国は、広報活動等を通じて、過重労働の防止等に関する事業主及び労働者の理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする。
(人材の確保)
- 第16条
- 国は、過重労働の防止等に関する人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。
(心身の健康の保持に係る体制の整備)
- 第17条
- 国は、職域あるいは事業所等における労働者の心身の健康の保持に係る体制の整備に必要な施策を講ずるものとする。
(医療提供体制の整備)
- 第18条
- 国は、心身の健康の保持に支障を生じていることにより過労死又は過労自殺のおそれがある労働者に対し必要な医療が早期かつ適切に提供されるよう、国、地方公共団体、事業主団体、事業主、医療機関等との間において適切な連携の確保等必要な施策を講ずるものとする。
(労働者及びその親族等に対する支援)
- 第19条
- 国は、過重労働により心身の健康の保持に支障を生じている労働者が過労死又は過労自殺に陥ることのないよう、被災労働者及びその親族等に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。
(民間団体の活動に対する支援)
- 第20条
- 国は、民間の団体が行う過重労働の防止等に関する活動を支援するために必要な施策を講ずるものとする。
第3章 過重労働総合対策会議
(設置及び所掌事務)
- 第21条
- 内閣府に、特別の機関として、過重労働総合対策会議(以下「会議」という。)を置く。
- 2
- 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
- 一
- 過重労働対策基本計画の案を作成すること。
- 二
- 過重労働対策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
- 三
- 前二号に掲げるもののほか、過重労働対策に関する重要事項について審議し、及び過重労働対策の実施を推進すること。
(組織等)
- 第22条
- 会議は、会長及び委員をもって組織する。
- 2
- 会長は、内閣官房長官をもって充てる。
- 3
- 委員は、厚生労働大臣、厚生労働副大臣、同政務官、その他内閣官房長官が指定する者をもって充てる。
その他内閣官房長官が指定する者については、労働者(家内労働法(昭和四十五年法律第六十号)第二条第二項に規定する家内労働者を含む。以下同じ。) を代表する者、使用者 (同条第三項に規定する委託者を含む。以下同じ。) を代表する者及び公益を代表する者のうちから、内閣官房長官が各1名を任命しなければならない。 - 4
- 会議に、幹事を置く。
- 5
- 幹事は、関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。
- 6
- 幹事は、会議の所掌事務について、会長及び委員を助ける。
- 7
- 前各項に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附則
(施行期日)
- 第1条
- この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
公開日時:2010年8月25日(水)