「裁量労働制拡大などの労働時間規制緩和に反対する決議」を出しました。
2026年4月4日に行われた過労死弁護団全国連絡会議の拡大幹事会において、以下の内容の「裁量労働制拡大などの労働時間規制緩和に反対する決議」を出しました。
裁量労働制拡大などの労働時間規制緩和に反対する決議
2026年4月4日
過労死弁護団全国連絡会議拡大幹事会
代表幹事 川人 博
代表幹事 松丸 正
幹事長 玉木一成
事務局長 大森秀昭
連絡先 東京駿河台法律事務所
TEL:03-3234-9143
FAX:03-3234-9134
高市首相は、昨年10月4日の自民党総裁選出後のあいさつで、「人数少ないですし、もう全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります。」と発言した。
当弁護団は、昨年10月6日付代表幹事声明において、かかる発言が、過重労働・長時間労働を強要することにつながり、政府が推し進めてきた健康的な職場づくりを否定するものとして、その撤回を求めたところである。
しかるに、高市首相は、昨年10月21日に首相に就任するや、上野厚労相に対し、労働時間規制の緩和の検討を行うよう指示した。さらに、高市首相は、本年2月20日の施政方針演説において、「働き方改革の総点検においてお聞きした働く方々のお声を踏まえ、裁量労働制の見直し、副業・兼業に当たっての健康確保措置の導入、テレワークなどの柔軟な働き方の拡大に向けた検討を進めます。とにかく成長のスイッチを押して、押して、押して、押して、押しまくってまいります。」と、敢えて総裁選出時の「馬車馬」発言を想起させる言葉を選んで、裁量労働制を拡大する方針を打ち出した。
現時点で裁量労働制拡大の具体的内容は明らかにされていないが、高市首相を議長とする日本成長戦略会議において、経団連会長は、過半数労働組合がある企業の労使で対象業務を一定の範囲内で拡大できる仕組みの導入を主張している。
裁量労働制は、実労働時間にかかわらず、あらかじめ労使協定などで決定された時間だけ労働したものとみなされる制度である。業務遂行の手段や時間配分の決定は労働者自身に委ねられるが、業務量や期限は使用者によって決定されるので、命じられた労働が過大である場合には、労働者は事実上長時間労働を強いられる。
現に、厚生労働省「裁量労働制実態調査」(2021年6月公表)によれば、週の平均実労働時間は、裁量労働制適用労働者が45時間18分と、非適用労働者43時間2分よりも長くなっている。また、同調査によると、週の労働時間60時間以上(法定時間40時間+時間外労働20時間)の労働者は、適用労働者が9.3%と、非適用労働者5.4%よりも多くなっている。同調査を基にした研究結果では、勤務方法や勤務時間の裁量を持たない労働者に裁量労働制が適用されると健康状態に悪影響を与えることが指摘されている。
働き方改革関連法は、2019年4月1日から順次施行されて丸7年を経過したが、未だ過労死等は減少していない。
すなわち、厚生労働省が毎年6月に公表している「過労死等の労災補償状況」によれば、脳・心臓疾患事案の労災請求件数は2019年度936件から2024年度1030件に、精神障害事案の労災請求件数は2019年度2060件から2024年度3780件に、それぞれ増加している。
この間、脳・心臓疾患事案、精神障害事案ともに、毎年、裁量労働制適用対象労働者の労災認定がなされている。
労働者自らが多様な働き方を選択できていたなら、このような労災請求・認定状況になることは考えられない。労基法の時間外労働の上限規制を設けてなお、このような状況にある中で、裁量労働制拡大等による労働時間規制緩和は到底認められるものではない。
本年3月5日に厚生労働省が公表した「働き方改革関連法施行後5年の総点検」(2025年10月調査)によれば、「労働時間を増やしたい」と回答した労働者は約10.5%にとどまり、そのうち、所定労働時間週35時間を超える労働者は約4.4%に過ぎない。労働時間を増やしたい理由は、「たくさん稼ぎたいから」「所定労働時間以外の労働分の収入(残業代)がないと家計が厳しいから」と経済的理由によるものが57.2%を占めている。これらの労働者の意見には、賃金増加や税・社会保険料制度改革によって対応すべきものであって、労働時間規制を緩和する必要はない。
他方、「労働時間を減らしたい」と回答した労働者は約30.0%に及び、妥当と考える時間外・休日労働について1か月あたり0~45時間と回答した労働者の合計は約93.0%に達している。このことは、労働時間規制の強化や、労働時間短縮に向けた実効性ある措置こそが求められることを示している。
いま、働く人々のいのちと健康を守るために必要なことは、裁量労働制の拡大ではなく、現行制度の適正運用の徹底と、さらなる労働時間規制の強化である。
当弁護団は、裁量労働制の拡大などの労働時間規制緩和に反対し、高市政権に対し、その撤回を求める。
以 上

