過重労働対策基本法の制定を
過重労働対策基本法(案)について
1 日本国憲法と労働基準法等の理念
日本国憲法は個人の尊厳(13条)、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(25条)とともに、基本的人権として「勤労の権利」を保障し(27条1項)、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準」を法律で定めるとしています(同2項)。
そして、これを受けて労基法は、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべき」最低基準(1条)として、週40時間・1日8時間労働の原則(32条)、休憩・休日の付与(34条1項、35条1項)などを定めています。
2 違法な過重労働の蔓延
ところが、現在のわが国の労働の現場は、次のように、およそ上記の憲法や労基法の理念とはかけ離れた実態にあります。
- 違法なサービス労働・賃金不払労働の常態化
- 会社の職階である「管理職」と、法律上の概念である「管理監督者」(労基法41条2号)は別のものなのに、「管理職」とされただけで時間外手当を支払わない、さらには「管理職」としての権限も処遇もない「名ばかり管理職」にまで時間外手当を支払わない
- 過労死認定基準を上回る時間外労働時間を認める「36協定」が締結され、労働基準監督署がこれを受理している
3 過労死・過労自殺の多発
その結果、過酷な長時間・過重労働が、業種・職種や年齢・性別を問わず、また正社員のみならず非正規労働者にまで広がり、過労死や過労疾患、過労による精神障害や過労自殺が多発しています。
激増する過労死・過労自殺の労災申請・労災認定は、「氷山の一角」にすぎません。
4 「過重労働対策基本法」の必要性
これに対して、厚生労働省や労働基準監督署は、様々な行政通達を発し、現場での行政指導を行っていますが、通達や行政指導は法的効力が弱いうえ、関係省庁や関係業界団体をも巻き込んだ、過重労働防止の観点からの総合的な対策とはなりえていません。
この点で、「○○基本法」と名のつく法律が制定されることによって、関連法令の整備や行政の改善、財政上の措置が大きく前進します。
そのことは、例えば「災害対策基本法」、「消費者基本法」、「障害者基本法」、「食品安全基本法」、「犯罪被害者等基本法」などの前例を見れば明らかです。
5 私たちが提案する「過重労働対策基本法」案
そこで、私たち過労死弁護団全国連絡会議と大阪過労死問題連絡会は、具体的なイメージの湧く法案を実際に作り、広く国民、関係団体、国会議員の皆さんに、制定に向けた議論と取り組みを訴えることにしました。
私たちは、私たちのこの案がベストとは思っていません。
これをたたき台にして、ぜひ、職場、家族、友人、労働組合、市民団体、業界団体、地方自治体、そして何よりも国会議員の皆さんの間で広く議論・検討していただき、この法案がより豊かなものとなって、法律として制定されることを願っています。
6 法案のポイントの一言解説
第1条は、この法律の目的を述べた規定です。
前半の「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところであることにかんがみ」とあるのは、いわゆる電通事件の最高裁判決(最高裁第2小法廷平成12年3月24日判決)の判示を取り入れたものです。
第4条~第7条は、過重労働を防止するための国、地方公共団体、事業主団体、事業主の責務を述べています。
第8条は、労働者が人間らしい労働条件のもとで働く権利(いわゆるディーセント・ワークの権利)を有することを確認しています。