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全国総会決議

ホワイトカラー・イグゼンプション反対決議

労働時間保護法制を解体する日本版ホワイトカラー・イグゼンプションの導入に反対する決議

  1. 2004年3月、内閣は「規制改革・民間開放推進3か年計画」においてアメリカのホワイトカラー・イグゼンプション制度を参考にした裁量性の高い業務についての適用除外方式の検討することを閣議決定した。厚生労働省は、2005年4月より、「今後の労働時間制度に関する研究会」において、アメリカの同制度等を含む労働時間全般について検討し、同年12月に報告をとりまとめ、来年には労働政策審議会の審議がなされ、2007年に国会に労働基準法の改正案が上程される予定である。
  2. アメリカの連邦法である公正労働基準法は、使用者が週40時間を超えて労働者を使用する場合に当該労働者における通常の賃率の1.5倍以上の率で賃金を支払うことを義務づけているが、労働時間規制が適用除外されるホワイトカラー労働者を規定している。労働長官が定める規則により、(1)棒給ベース要件、(2)棒給水準要件、(3)職務要件が定められているが、2004年に規則改正が行われても、棒給水準は週給455ドルと低廉であり、職務要件は曖昧かつ広範で、ファーストフード店のアシスタント・マネージャー、工場や建築現場のチーム・リーダー、会計、マーケティング、庶務等の担当者も適用除外の対象となり、アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)の試算では、2004年の規則改正により、新たに600万人が適用除外の対象となって、労働時間が管理なされなくなり、労働時間法制の保護を受けられなくなった(連合「アメリカホワイトカラー・イグゼンプション調査団報告書」)。
  3. アメリカでは、2004年の規則改正前であるが、適用除外労働者の約44%が週40時間を超えて労働しており、約15%が週50時間、約3%が60時間を超えて労働しており、非適用除外労働者に比べて長時間労働に従事している。このことからすれば、ホワイトカラー・イグゼンプションが長時間労働を誘導する機能を有することは明らかである。
    日本においても長時間労働が問題となっていることは周知のことであり、国際労働機関(ILO)の調査報告や独立行政法人労働政策研究・研修機構の「日本の長時間労働・不払い労働時間の実態と実証分析」(2005年)などによっても明らかである。そして、この状況は、裁量労働みなし時間制を採用しても解決はせず、むしろ長時間労働とそれによる健康障害を助長することは東邦大医学部のグループの調査結果で明らかとなった。
    多数のホワイトカラー労働者は、「仕事量が多い」と認識しながらも、自己の裁量で効率的に仕事をして労働時間を減少させているのではなく、過大に与えられた仕事をこなすため、自己の休養や娯楽、家事育児などの時間を削って長時間労働に従事し、疲弊しているのが現実である。その結果、過労死が、日本の企業社会の病理現象として、社会法則的に大量発生しており、いつか誰かが遭遇する出来事となっているのである。
    したがって、ホワイトカラー労働者の健康障害を防止し、過労死を予防するため、まずは業務量の調節や人員配置、休暇の取得などの措置を適正に講じて長時間労働を是正するべきである。
  4. しかも、厚生労働省の集計によると、2004年に不払残業で是正指導を受けたのは2万299件、前年比1788件も増加しており、不払残業が横行しているが、企業は、労働者に長時間労働をさせて成果や利益を上げさせ、さらに残業代を支払わずに二重に利得をしているのである。したがって、長時間労働の是正とともに、適正な労働時間管理を徹底し、この不払残業も撲滅すべきである。
    このように長時間労働や不払残業、その凄惨な結果としての過労死が減らない状況にあるにもかかわらず、逆に長時間労働を助長するアメリカのホワイトカラー・イグゼンプションを導入すべきではない。
  5. 日本の労働時間規制はホワイトカラー労働者に適合しないとの論調がある。確かに労働基準法が制定された1947年よりも、現在は産業構造の変化によりホワイトカラー労働者が大幅に増加している。しかし、メーデーの契機となったアメリカのゼネストで謳われた「仕事に8時間、休息に8時間、自分自身のために8時間」というスローガンは、人間として当たり前の生活をすることを要求したまでで、この要求は、ブルーカラーであろうがホワイトカラーであろうが人間である以上同じことである。
    戦前の日本では労働時間規制がない中で多数の労働者の生命と健康が奪われた。その反省の上に立って戦後の民主主義を確立するため、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきもの」(労働基準法1条)として8時間制が施行され、労働者は、1日8時間以内、週40時間以内の所定労働時間を超える労働から原則として解放されるという労働時間法制の保護を受けることになったものである。これは、ホワイトカラー労働者が増加した現在でも変わらない労働条件の最低基準であり、労働契約の根本的な内容である。
    しかし、ホワイトカラー・イグゼンプションは、労働者が1日8時間以内で労務を提供し、その対価として賃金の支払を受けるという労働契約の基本をコペルニクス的に転換し、成果主義賃金制度の導入と相俟って、労働者は無制限に労務を提供し、その結果挙げた「成果」の対価として賃金の支払を受けるという内容に変更することになる。
    ホワイトカラー・イグゼンプションは、この労働条件の最低基準たる8時間労働制を有名無実化し、ホワイトカラー労働者を戦前の無権利状態に追いやるものである。 人間として健康に生存する権利は、誰もが持っている、誰にも侵されない、根源的な基本的人権である。労働者にとっては、生命、健康な身体がなければ、労働することも生活することもできないのである。
    8時間労働制は、職種を問わず、人間として健康に生存する権利を保障し、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」(憲法25条)ために必要不可欠な労働時間規制であり、ホワイトカラー労働者に適合しないものではなく、むしろ過大な仕事をこなすために長時間労働を強いられているホワイトカラー労働者こそ、遵守されなければならない。
  6. 今日本にあるべき労働時間規制とは何か。
    日本と同じく労働時間の長さを直接規制する方式(直接規制型)を採るドイツやフランスでは、労働時間規制の適用除外の対象が厳格に限定されており、この対象に広範なホワイトカラー労働者を追加するという議論は全くない。そして、両国が1日の実労働時間が10時間を上限として規制していることからすれば、日本においても、脳・心臓疾患の労災認定基準(2001年12月12日基発第1063号)が脳・心臓疾患の発症と業務との関連性が認められる境界ラインとしている1日2時間の時間外労働を上限とする規制を立法化するのが急務というべきである。
  7. アメリカは、法定時間外労働に割増賃金の支払いを課すことによってしか規制しない方式(間接規制型)を採っており、労働時間の長さが規制されているわけではないので、割増賃金を支払えば上限なく労働させることができるのであり、時間外労働について36協定の締結・届出又は行政官庁の許可という日本の労働基準法が規定している手続は必要ない。これに対し、日本の労働基準法は直接規制型を採っており、その中にアメリカの労働時間法制を安易に持ち込むことは、法体系上も矛盾を生じることになるというべきである。
  8. ホワイトカラー・イグゼンプションは、長時間労働や過労死の予防には繋がらず、むしろこれを助長するばかりか、日本とアメリカでは、労働法制の体系及び内容、労働者の就労意識、年休取得状況、労働市場の状況などに大きな違いがあるのであり、アメリカのホワイトカラー・イグゼンプションを日本において導入すべき土壌はないといわざるを得ない。
    したがって、労働時間規制の方式が異なるアメリカのホワイトカラー・イグゼンプションを日本に輸入すべきではない。
  9. 以上より、過労死弁護団全国連絡会議は、日本の労働時間保護法制を解体するホワイトカラー・イグゼンプション導入に強く反対するものである。

2005年10月1日

過労死弁護団全国連絡会議第18回全国総会

過労死弁護団全国連絡会議第19回全国総会

「自律的労働にふさわしい制度」の創設に反対する決議

  1. 厚生労働省は、2006年6月、労働政策審議会労働条件分科会において、「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」(以下「厚労省案」という。)を示した。特に労働時間制度においては、「自律的労働にふさわしい制度」(以下「自律的労働時間制度」という。)の創設が提案されている。
    この自律的労働時間制度は、使用者から具体的な労働時間の配分の指示を受けることがない者及び使用者から業務の追加の指示があった場合は既存の業務との調節ができる者で、1年間に支払われる賃金の額が自律的に働き方を決定できると評価されるに足る一定水準以上の額であるなどの要件を充たした場合、労働基準法35条(休日)と39条(年次有給休暇)以外の労働時間、休憩及び休日の労働及び割増賃金に関する規定を適用除外するというものである。
  2. 自律的労働時間制度の立法事実は、産業構造が変化し就業形態・就業意識の多様化が進んで、高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望み、緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者がおり、このため一層の能力発揮をできるようにする環境を整える必要があるとされている。 一方で、厚労省案は、次世代を育成する世代(30歳代)の男性を中心に長時間労働者の割合が高止まりしている現状を踏まえ、過労死の防止、長時間労働の削減や少子化対策という観点から、時間外労働の削減のための割増賃金の引き上げ、健康確保のための休日や年次有給休暇制度の改正も提案している。
    これに対し、自律的労働時間制度については、労働者の自己実現や能力発揮しか挙げられておらず、過労死・長時間労働の防止や少子化対策という観点はない。
  3. しかし、厚生労働省の「裁量労働制の施行状況等に関する調査」(2005年)によれば、対象労働者の要件が類似する裁量労働制や、労働時間規制が適用除外となる管理監督者は、一般労働者よりも、深夜や休日に及ぶ長時間労働をしている実態が浮かび上がってくる。
    同様の結果は、独立行政法人労働政策研究・研修機構の「日本の長時間労働・不払い労働時間の実態と実証分析」(2005年)や「働き方の現状と意識に関するアンケート調査結果」(2006年)においても出ているのであり、自律的労働時間制度においても、休養と疲労回復のための休日の確保や早い時間帯の帰宅が困難であることを示している。
    とすれば、自律的労働時間制度の対象労働者についても、長時間労働・過労死の防止という観点から創設の可否を含めて慎重に検討すべきである。
    この点につき、厚労省案は、健康確保措置として、相当程度の休日の確保と健康のチェックが提案しているが、前者は1年間を通じ週休2日相当の休日や一定日数以上の連続する特別休暇という程度のものにすぎず、後者は医師による面接指導を具体例に挙げるだけで、これまでの過労死判例の到達点から見て、とても長時間労働の歯止めになる措置とは認められない。
  4. 厚生労働白書(2005年版)によれば、25~39歳男性就労者のうち週間就労時間60時間以上の者の割合が高い東京都では合計特殊出生率が低く、週間就労時間60時間以上の者の割合が低い沖縄県では合計特殊出生率が高くなっており、長時間労働で仕事以外の時間が足りないと出生率が低いという結果が出ている。長時間労働が少子化の一つの要因になっているのであり、その是正が少子化対策に有効であることは間違いない。
    そして、このことは、自律的労働時間制度の対象労働者であっても同様であり、少子化対策のために長時間労働を防止するという観点から検討しなければならない。しかし、厚労省案ではこの実効的な措置を何ら提案しておらず、自律的労働時間制度により長時間労働が誘引されるおそれがあることは、アメリカのホワイトカラー・エグゼンプションの対象労働者が非適用除外の労働者よりも長時間労働をしている割合が高いことからも明らかである。
  5. 「裁量労働制の施行状況等に関する調査」によれば、今後の労働時間管理の在り方について、裁量労働制導入事業場の回答は「労働時間規制を受けない働き方の導入」が4割以上あるが、「現行のままでよい」とする回答も4割近くに上り、また、未導入の企業の回答は前者が3割にすぎないのに対し、後者が4割を超えて逆転している。企業側においても過半数が適用除外を望んでいるわけではなく、導入を希望する企業とそうでない企業との割合は拮抗しているのである。
    一方、労働者側の回答でも、労働時間管理を受けない働き方の実現を望む割合は裁量労働制の対象労働者の中でも1~2割程度しかなく、むしろ適用除外よりも、賃金不払い残業の是正、年次有給休暇の容易な取得を望んでいるのが実態である。
    また、厚生労働省の「社会保障を支える世代に関する実態調査」(2004年)では、理想とする働き方や労働条件として、長時間労働が多いとされる30歳代の回答では、「有給休暇が取得しやすい」が第1位(40.1%)、「残業が少ない」が第2位(35.5%)、「子育てと両立可能」が第3位(30.8%)となっている。厚生労働省の「社会保障に関するアンケート調査」(2006年)でも、15年後の将来の理想として、「生活の中心が余暇」と回答する者が77.3%と8割近くに上っている。
    これらの調査結果からすれば、厚労省案の立法事実に反して、多くの労働者は、新たな労働時間規制の適用除外制度を望んではいないのであり、能力発揮・自己実現よりも、労働時間の短縮や休日・休暇の取得を望む声のほうが大きいのである。
    このように前提となる立法事実が誤りである以上、労働時間規制の適用除外を拡大する自律的労働時間制度もまた誤りであることは明らかというべきである。
  6. さらに厚労省案は、企画業務型裁量労働制について、中小企業に使い勝手のよいように要件を緩和することも提案している。
    しかしながら、「裁量労働制の施行状況等に関する調査」によれば、大半の裁量労働制の対象労働者は、出退勤の自由が制限されており、仕事の目標、期限や内容の決定及び業務の遂行方法の決定についても裁量の幅が限定されているのが現状である。
    まずこの法違反を是正せず、実態を無視して、安易に企画業務型裁量労働制について、中小企業に使い勝手のよいように要件を緩和すべきではない。
  7. 以上より、過労死弁護団全国連絡会議は、誤った立法事実に基づく拙速な労働時間法制の改正に強く反対するものである。

2006年9月30日

過労死弁護団全国連絡会議第19回全国総会

「過労死防止基本法」の制定を求める決議

過労死弁護団全国連絡会議は,1988年10月に結成されて以来20年間,過労死・過労自殺(以下「過労死」と総称する。)の被災労働者とその家族の被害の救済と,過労死の防止・根絶を目的に活動してきた。

この間,厚生労働省の過労死の労災認定にかかる行政通達を改定させ,また,電通過労自殺最高裁判決など企業に対する損害賠償を認める多数の判決を勝ち取るなど,過労死の被災労働者やその家族の被害の救済を実現し,厚生労働省をして,過重労働による健康障害防止のための総合対策をとらせるなどに至った。ところが,「サービス残業」,「名ばかり管理職」など労働者が過酷な長時間労働を強いられ,過労死が発生する実態は深刻になる一方である。

このような実態を改善し,真に過労死の防止・根絶を実現するためには,

  1. 国が労働者の健康の保持,増進するために過労死防止のための諸政策をすみやかに実施し,国民の健康で文化的な生活の確保に努めること,
  2. 労働者を雇用する事業主は,業務の遂行に伴う疲労が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう努めること,
  3. 労働者は,事業主に対し,業務の遂行により心身の健康を損なうことのないように配慮すべきことを求めることができること,
  4. 労働者が十分な休息をとる権利があること,

などを柱とする「過労死防止基本法」をすみやかに立法することが必要不可欠である。

 

過労死弁護団全国連絡会議は,行政府及び国会に対し,「過労死防止基本法」を制定するように求める。また,政党,労働組合ほか諸団体及び過労死根絶を願う人々がともに,「過労死防止基本法」の立法促進の活動に参加するように訴える。

以上,決議する。

2008年9月26日

過労死弁護団全国連絡会議第21回全国総会

「過労死防止基本法」制定の早期実現を

  1. 労働者の過重な業務による疲労の蓄積や業務に起因する極度の心理的負荷等によって脳・心臓疾患や精神障害を発症して生ずる労働災害である「過労死」が社会用語となって、四半世紀が経とうとしているが、過労死・過労自殺は減るどころか、いっそう広がりつつある。
    まじめで誠実な働き盛りの労働者が過労死で命を落としていくことは遺された家族にとっても、その労働者を雇用する企業及び事業所にとっても大きな損失であることは論を待たない。
  2. しかし、労働者はいくら労働条件が厳しくても、会社にその改善を申し出るのは容易ではなく、また、個別の企業が労働条件を改善したいと思っても、厳しい企業間競争とグローバル経済の中、自社だけを改善するのは難しい面がある。
    そこで、(1)過労死はあってはならないことを国が宣言し、(2)過労死をなくすための国・自治体・事業主の責務を明確にし、(3)国は過労死に関する調査・研究を行うとともに総合的な対策を行うことを柱とする「過労死防止基本法」の制定が必要である。
  3. 当連絡会議は、2008年9月の第21回総会において、「『過労死防止基本法』の制定を求める決議」を採択したが、この決議が契機となり、全国過労死を考える家族の会と当連絡会議の呼びかけで2011年11月18日、「ストップ!過労死 過労死防止基本法制定実行委員会」が結成され、実行委員会は「100万人署名」を中心とした世論喚起と、超党派の国会議員への働きかけの2つの取り組みを行ってきた。
    これまでに集約された署名数は30万を超え、世論を大きく広げつつある。
    また、国会への働きかけについても、実行委員会の前後を通じて、これまでに4回にわたって「院内集会」を開催し、衆参の厚生労働委員会の委員を中心に、超党派の多くの国会議員とつながりが広がりつつある。
  4. 国会をめぐる情勢は流動的であるが、当連絡会議は、この「基本法」の重要性と緊急性に鑑み、議員立法などによってこれを早期に制定することを強く訴えるとともに、過労死を無くす基本法を制定しようという一点で、多くの労働団体・市民団体と協同し、署名を更に広げて世論を喚起する運動の先頭に立っことを、ここに決意するものである。

2012年9月28日

過労死弁護団全国連絡会議 第25回全国総会

過労死防止基本法(案)

平成24年9月28日

過労死弁護団全国連絡会議 第25回全国総会

第1章 総則

(目的)

第1条 この法律は、近年、我が国において労働者の過重な業務による疲労の蓄積や業務に起因する極度の心理的負荷等によって脳・心臓疾患や精神障害を発症して生ずる労働災害である過労死が多発していること、また、まじめで誠実な働き盛りの労働者が過労死で命を落としていくことは遺された家族にとっても、その労働者を雇用する企業及び事業所にとっても大きな損失であることにかんがみ、過労死の防止に関する基本理念を定め、国及び地方公共団体並びに事業主等の責務を明らかにするとともに、過労死対策の基本となる事項を定めることにより、過労死防止対策を総合的に推進し、あわせて過労死のおそれがある労働者とその親族等に対する支援の充実を図り、もって仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において「過労死」とは、過重労働によって心身の健康を損ねた結果生じる、脳・心臓疾患等の発症による死亡並びに精神障害等の発症による自殺をいう。

(基本理念)

第3条 過労死は、あってはならない。
2 過労死防止対策は、過重労働が過労死を招くことにかんがみ、過重労働が労働者の心身に与える影響や、ワーク・ライフ・バランスに関する調査研究も踏まえて実施されなければならない。
3 過労死防止対策は、国、地方公共団体、事業主団体、事業主、医療機関、過労死防止等に関する活動を行う民間の団体その他関係する者の相互の密接な連携の下に実施されなければならない。

(国の責務)

第4条 国は、前条の基本理念にのっとり、過労死防止対策を総合的に策定し、実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務)

第5条 地方公共団体は、第3条の基本理念にのっとり、過労死防止対策について、国と協力しつつ、当該地域の労働状況に応じた施策を策定し、実施する責務を有する。

(事業主の責務)

第6条 事業主は、第3条の基本理念にのっとり、国及び地方公共団体が実施する過労死防止対策に協力するとともに、その雇用する労働者の業務の遂行に伴って心身の健康を損なうことがないように必要な措置を講ずる責務を有する。

(事業主団体の責務)

第7条 事業主団体は、第3条の基本理念にのっとり、事業主の自主的な取組を尊重しつつ、労働者の生命・健康の維持・向上を図るための自主的な活動に努めるものとする。

(労働者の権利)

第8条 労働者は、労働時間、賃金、休日、休憩、休息、労働の内容などにおいて、個人の尊厳と心身の健康を損なわず、人間らしい生活を継続的に営むことができるような労働条件のもとで働く権利を有する。

(過労死防止対策啓発週間)

第9条 国民の問に広く過労死防止についての関心と認識を深めるため、過労死防止対策啓発週間を設ける。
2 過労死防止対策啓発週間は、毎年11月16日から同月23日までの1週間とする。
3 国及び地方公共団体は、過労死防止対策啓発週間の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めなければならない。

(過労死防止対策基本計画)

第10条 政府は、過労死防止対策の計画的な推進を図るため、過労死防止対策の推進に関する基本的な計画(以下「過労死防止対策基本計画」という。)を定めなければならない。
2 過労死防止対策基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
  一 長期的に講ずべき過労死防止対策
  二 前号に掲げるもののほか、過労死防止対策の計画的な推進を図るために必要な事項
3 内閣総理大臣は、過労死防止対策基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、過労死防止対策基本計画を公表しなければならない。
5 前二項の規定は、過労死防止対策基本計画の変更について準用する。

(法制上の措置等)

第11条 国は、この法律の目的を達成するため、必要な関係法令の制定又は改正を行わなければならない。
2 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な財政上の措置を講じなければならない。

(年次報告)

第12条 政府は、毎年、国会に、我が国における過労死発生の概要及び原因並びに政府が講じた過労死防止対策の実施の状況に関する報告書を提出しなければならない。

第2章 基本的施策

(調査研究の推進等)

第13条 国は、過労死の防止に関し、調査研究を推進し、並びに情報の収集・整理・分析及び提供を行うものとする。
2 国は、前項の施策の効果的かつ効率的な実施に資するための体制の整備を行うものとする。

(理解の増進)

第14条 国は、広報活動等を通じて、過労死の防止等に関する事業主及び労働者の理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする。

(医療提供体制の整備)

第15条 国は、過労死のおそれがある労働者に対し必要な医療が早期かつ適切に提供されるよう、必要な施策を講ずるものとする。

(労働者及びその親族等に対する支援)

第16条 国は、過労死のおそれがある労働者が過労死に至ることのないよう、当該労働者及びその親族等に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。

第3章 過労死防止総合対策会議

(設置及び所掌事務)

第17条 内閣府に、特別の機関として、過労死防止総合対策会議(以下「会議」という。)を置く。
2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
 一 過労死防止対策基本計画の案を作成すること。
 二 過労死防止対策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
 三 前二号に掲げるもののほか、過労死防止対策に関する重要事項について審議し、過労死防止対策の実施を推進すること。

(組織等)

第18条 会議は、会長及び委員をもって組織する。
2 会長は、内閣官房長官をもって充てる。
3 委員は、厚生労働大臣、厚生労働副大臣、同政務官、その他内閣官房長官が指定する者をもって充てる。
 その他内閣官房長官が指定する者については、労働者(家内労働法(昭和四十五年法律第六十号)第二条第二項に規定する家内労働者を含む。以下同じ。)を代表する者、使用者(同条第三項に
規定する委託者を含む。以下同じ。)を代表する者及び公益を代表する者のうちから、内閣官房
長官が各1名を任命しなければならない。
4 会議に、幹事を置く。
5 幹事は、関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。
6 幹事は、会議の所掌事務について、会長及び委員を助ける。
7 前各項に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

附 則

(施行期日)

第1条 この法律は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

「過労死防止基本法」の制定を実現する決議

  1. 当連絡会議は、2008年9月の第21回総会において、「『過労死防止基本法』の制定を求める決議」を採択したが、この決議が契機となり、全国過労死を考える家族の会と当連絡会議の呼びかけで2011年11月18日、「ストップ!過労死 過労死防止基本法制定実行委員会」が結成され、実行委員会は、(1)「100万人署名」を中心とした世論喚起と、(2)超党派の国会議員への働きかけの2つの取り組みを行ってきた。
  2. 世論喚起の取り組みは、この2年近くの間に大きく前進した。「100万人署名」は50万筆に近づきつつある。地方自治法99条に基づく地方議会の「過労死防止基本法の制定を求める意見書」を採択した自治体は、既に30を超えている。
  3. 超党派国会議員への働きかけの点でも、これまで7回に及ぶ「院内集会」やそれに向けた国会議員への粘り強いロビー活動、パンフレット「過労死防止基本法の1日も早い制定を」の発行、いくつかの政党での勉強会の実現、2回にわたる国政選挙での立候補者への賛同要請活動などによって、賛同してくれる議員は飛躍的に増加し、「過労死防止基本法制定をめざす超党派議員連盟」の設立に向けた具体的な動きが始まっている。
  4. 私たちがこのような取り組みを進めている間にも、不況・リストラの進行や就職難もあって、過労死・過労自殺・過労による精神疾患は引き続き広がっており、また、若者をはじめ労働者を使い捨てる「ブラック企業」が社会問題化し、厚生労働省は今年9月に「若者の『使い捨て』が疑われる企業への取組を強化」し、集中的な監督指導やブラック企業に関する電話相談を実施するに至っている。
  5. このような社会状況と私たちの取り組みの中で、(1)過労死はあってはならないことを国が宣言し、(2)過労死をなくすための国・自治体・事業主の責務を明確にし、(3)国は過労死に関する調査・研究を行うとともに総合的な対策を行うことを柱とする「過労死防止基本法」の制定が必要性は、広く社会的に認識されつつある。そして、議論は、この法律の対象者を誰にするか、どのような調査・研究を行うか、どの官庁が管轄するかといった各論にまで広がりつつある。
  6. 私たちは、実行委員会に結集して「100万人署名」や地方自治体の意見書採択などにより世論喚起をいっそう広げるとともに、過労死事件に取り組む専門家集団として、よりよい法案を練り上げていくことについても経験と知見を発揮すし、文字どおり過労死を防止する基本法の制定を実現するために、全力を尽くすことを決意するものである。

2013年9月27日

過労死弁護団全国連絡会議第26回総会

残業規制を撤廃し過労死を促進する法案に反対する決議

2014年6月20日、参議院本会議で「過労死等防止対策推進法」(過労死防止法)が満場一致で可決され、法律として成立した。この法律は、1980年代後半から社会問題化し、四半世紀を超えてもなお広がり続けている過労死・過労自殺をなくすことを目的として成立した、過労死防止に向けた長年に渡る運動の結晶である。

しかしながら、現在、安倍政権のもとで、本法の理念とは完全に逆行する動きが進行している。これが、労働時間制度の規制緩和である。

過労死防止法制定のわずか4日後の2014年6月24日、「日本再興戦略改定2014-未来への挑戦-」が閣議決定された。この中では、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応える、新たな労働時間制度を創設する」として、一定の要件を満たした労働者を対象に、長時間労働を抑制する法律上の規制を撤廃することが意図されている。

現在、長時間過重労働による過労死・過労自殺、精神疾患などの健康被害が広く日本の職場に蔓延している状況の中で、労働時間制度の規制緩和を行ったならば、ますます長時間労働が広がり、過労死・過労自殺が増加することは火を見るよりも明らかである。政府が導入を目指している新制度は、わが国で働く労働者の命と健康を脅かす極めて危険な内容であり、過労死を広げる「過労死促進法」というべきものである。

新制度のいう適用対象労働者の範囲についても、職務が明確で高い能力を有する労働者という要件はあまりにも抽象的であり、およそ対象が限定されていない。これでは使用者の一方的解釈によってあらゆる種類の労働者が対象となるおそれが高い。
また、年収1000万円以上という要件に関しても、高年収の労働者であれば、長時間過重労働による健康被害を防止しなくてよいということには決してならない上、ひとたび新制度が立法化されてしまえば、なし崩し的に年収要件が引き下げられていくことは必至であり、現に日本経団連は2005年6月21日の「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」で、対象労働者の年収を400万円と想定している。

加えて、新制度は法定労働時間の規制をなくするものであるから、どんなに長時間労働を課したとしても労基法違反ではないということになるため、労働基準監督官が長時間の残業を取り締まるための法的根拠がなくなってしまう。
労働基準監督官による長時間労働の取り締まりが困難という事態になれば、ますます過労死・過労自殺が増えることは必至である。

以上より、過労死弁護団全国連絡会議は、日本の労働時間規制の解体をもたらす過労死促進法の導入に強く反対するものである。

2014年9月26日

過労死弁護団全国連絡会議第27回全国総会

暴力とハラスメントの根絶に関する条約の批准を求める決議

2019年6月10日より行われた第108回ILO総会において、暴力とハラスメントの根絶に関する条約及び勧告が採択され、国際労働基準として、全ての暴力ハラスメントを根絶すべきことが明確にされた。同条約では、全ての人の暴力とハラスメントのない働く世界への権利を明確にして、包括的に暴力とハラスメントを禁止し、職場においても、社会においても、暴力とハラスメントのリスク測定と防止の措置をとるべきことを求めている。

 日本国は、この条約に賛成しているものの、批准について前向きとはいえない姿勢を示している。

 過労死、とりわけ過労自殺の防止という観点では、長時間労働に加えて、ハラスメント防止が極めて重要である。このことは、2018年7月24日付厚生労働省「過労死等の防止のための対策に関する大綱」においても、精神疾患の労災保険給付が行われた事例中、「(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」「セクシュアルハラスメントを受けた」の件数が多いこと、労働相談の中でも、ハラスメントに関する相談件数が最も多いこと等を指摘した上、「過労死 等の防止を進めていく上で職場におけるハラスメントへの的確な対応が強く 求められている状況にある」と指摘されていることからも明らかである。

 そこで、日本においても、現在男女雇用機会均等法・労働施策総合推進法等に定められる措置義務に留まらず、包括的にハラスメントを禁止する等の法整備を進め、ハラスメントを根絶すべく、ILO条約に批准すべきである。さらに、条約批准を待たず、労災認定基準や、過労死等予防対策についても、ILO条約の趣旨を踏まえたものに改善すべきである。

2019年9月27日

過労死弁護団全国連絡会議第32回全国総会

複数職場の労働法制改定とテレワークの普及を踏まえ、国と企業にいっそうの過重労働防止・労働者の健康確保を求める決議

1 今般、労災保険法の改正により、労災認定において、複数職場における労働時間が合算され業務の負荷が考慮されることになり、また、賃金についても合算されることにより、被災者・遺族の救済へ向けて一定の改善がはかられた。このことは、被災者・遺族の救済にとって評価すべきことではあるが、本来、過重労働及び過労死を防止することが重要であることは言うまでもない。

  現在の法制度において、使用者が、労働者の別の職場で業務を行っている時間を把握する方法は、基本的に自己申告に限られる。このような自己申告制度については、労働者が事実どおりの申告をためらう可能性があることを十分留意する必要がある。

  労働者が副業・兼業を行って複数の職場で働く理由としては、厚労省の調査によれば、十分な収入を得たいとの理由が多い。しかしながら、使用者側は、時間外手当支払や、その計算を避けようとする傾向にあり、労働者側がそのような使用者側の意向によって正確な労働時間を申告できない恐れがある。このため、実質的な長時間労働が隠される危険がある。加えて、労働者の健康にとって、複数職場で働くことにより、長時間労働の外にも、移動や環境の変化、人間関係の複雑化等によって心理的負荷がよりかかりやすくなることも容易に想定される。

  さらに、労働時間把握義務の根拠の一つである産業医による面談(労安衛法66条の8)に関しては、労働時間通算は行われない(令和2年9月1日基発0901)こととされており、労働者の健康確保措置が法的に整理されているとは言いがたい。

2 新型コロナウイルスの流行によって、テレワークが普及するようになった。テレワークにおいては、自己の生活領域において業務が遂行されることが多く、また、事業場外で行われることから、労働時間の正確な把握がなされない可能性が高い。この結果、深夜労働を含め、長時間労働の実態が続いている実例がある。加えて、生活領域におけるウェブ会議等、通常の対面コミュニケーションや業務態様とは異なる業務上のストレスを労働者が受けている。したがって、テレワークの普及による労働者の健康問題について、十分に留意することが必要である。

3 この間、国は、複数職場における業務を推奨し、また、テレワークを進めるなどの施策をとっている。

しかしながら、これらの施策は、労働者の心身の健康を損なう危険性があり、国及び企業は、そのことを十分に考慮し、必要な措置を講じることを強く求める次第である。

2020年10月2日

過労死弁護団全国連絡会議第33回全国総会

労災認定基準改定等の早期実現を求める決議

1 過労死弁護団全国連絡会議は,2018年5月,厚生労働省に対し,「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(基発第1063号。以下「脳・心臓疾患の認定基準」という。),及び,「心理的負荷による精神障害の認定基準」(基発1226第1号,以下「精神障害の認定基準」という。)の改定を求め,意見書及び認定基準改定案を提出した。

  また,2020年5月,厚生労働省に対し,労災認定基準の改定に関する補充意見書と共に,労災保険適用手続に関する緊急改善要請書を提出した。

2 上記活動の成果もあり,精神障害の認定基準については,2020年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されたこと等を踏まえ,2020年5月29日,認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」が一部改定された(「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について」基発0529第1号)。

しかしながら,パワーハラスメントにより心理的負荷が「強」となる具体例について,身体的攻撃や精神的攻撃が「執拗に」行われたという要件を課すなど,救済の範囲を狭める不当な内容となっている。

また,令和2年8月21日,複数業務要因災害についても,労災補償の対象となることが明記されたが(基発0821第4号),認定基準全体の改定に関する専門検討会を設置する段階には至っておらず,今後,最新のライフイベント研究等に基づく認定基準全般の見直しが必須である。

3 一方,脳・心臓疾患の認定基準については,厚生労働省が,2018年度及び2019年度に,業務上疾病に関する医学的知見(2018年度は労働時間以外の負荷要因について,2019年度は基礎疾患,年齢など属性について)の収集に係る調査研究を委託事業として実施し,2020年6月には,脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会が設置されるなど,改定に向けた議論が始まった。

  2001年の改定以来,約19年を経て専門検討会が設置されたことについては,過労死弁護団全国連絡会議の活動の成果であり,前進であると評価できるものの,改定の方向性については引き続き注視の上,正しい道筋への舵取りが必要となる。

  また,労災保険適用手続に関する改善は,今後の重要な課題である。

4 以上のとおり,厚生労働省に対しては,過労死等の被災労働者・遺族の補償を拡大すべく,労災認定基準の改定及び労災保険適用手続の是正を早期に実現すべきことを強く求める次第である。

  また,過労死弁護団全国連絡会議は,労災認定基準改定等の早期実現を強く訴えるとともに,引き続き,過労死等の被災労働者・遺族の補償や救済を拡大する運動の先頭に立つことを,ここに決意するものである。

2020年10月2日

過労死弁護団全国連絡会議第33回全国総会